指導をしていていちばん悩むのは、「何を教えるか」よりも「どう伝えるか」です。
「伝えた」と「伝わった」は違う
同じ言葉でも、受け取る人によって意味は変わります。「もっと思い切って」という一言が、ある人には背中を押す言葉になり、別の人には「今のはダメだった」という否定に聞こえる。
伝え方は話す側が選べますが、伝わり方は受け取る人の中で起きます。指導の難しさは、この二つのあいだの「ずれ」にあります。
私たちが教わってきた時代
少し前まで、音楽や部活動の現場には厳しい言葉があふれていました。大きな声で怒られる、「なんでできないの」と詰められる。それを受け止めるのは教わる側だ、というのが当たり前だったように思います。
その中で悔しさをバネに伸びた人もいます。けれども同じくらい、音楽が嫌いになって楽器をやめてしまった人もいたはずです。
私自身、ウィーンでは「歌いすぎ」と言われ続けて落ち込んだ経験があります(その話は楽器奏者である前に、音楽家でありたいに書きました)。だからこそ、言葉の重さを知っているつもりです。
いまの時代に変わったこと
ハラスメントという言葉が広く知られ、言葉の選び方に気を配ることが当たり前になりました。私はこの変化を、良いことだと思っています。恐れで人を動かす指導は、いちばん大切な「音楽が好きだ」という気持ちを削ってしまうからです。
ただ、指導する側には新しい難しさも生まれました。言うべきことを言わないのは、優しさではありません。遠慮しすぎて本当に必要なことが伝わらなければ、その人が伸びる機会を奪うことになります。
私も、すごく悩んでいます
部活動の指導でも個人レッスンでも、毎回のように悩みます。この一言はきつく聞こえないだろうか。逆に、やわらかくしすぎて何も伝わっていないのではないか。
昨日の生徒には響いた言葉が、今日の生徒には重すぎたりもします。正直に言うと、正解はまだ見つかっていません。
以前、ある生徒にこんなことがありました。「その音量だと吹いている意味があまりないから、もう少し出してみよう」。私としては、深い意味のない一言のつもりでした。けれどもその生徒にとっては、とてもショックな言葉だったのです。
本当に伝えたかったのは「あなたの音をもっと聴きたい」ということでした。でも「意味がない」という言葉は、音ではなくその子自身に向けられたように届いてしまった。何気ない一言ほど、伝わり方には気をつけなければいけないと、改めて学んだ出来事でした。
指導で大切にしている五つの約束
それでも、悩みながらたどり着いた自分なりの約束があります。
- 人ではなく、音について話す。 「あなたはダメ」ではなく、「この音はこうするともっと良くなる」。
- 理由を一緒に伝える。 なぜそうするのかが分かれば、指摘は否定ではなく道しるべになります。
- できたことも言葉にする。 直すことと同じくらい、良くなったことを伝えます。
- 伝わったかを確かめる。 「今の説明、分かりにくくなかった?」と聞くことを、恥ずかしいとは思いません。
- 厳しさは、言葉の強さではなく目標の高さで示す。 声を荒げることはありません。その人に合った目標を、一緒に高く持ちます。
伝える側も、受け取る側も
レッスンは一方通行ではなく、対話だと思っています。学生さんも大人の方も、分からないときは遠慮なく、その場で聞いてください。「その言い方だと分かりにくい」と教えてもらえることは、私にとっても大きな助けになります。
おわりに
時代とともに、伝え方の形は変わっていきます。それでも、相手にもっと良くなってほしい、音楽をもっと好きになってほしいという気持ちは変わりません。
個人レッスンでは、経験や目標、性格に合わせて、一人ひとりに届く言葉を選ぶことを大切にしています。「怒られたらどうしよう」と不安な方も、どうぞ安心してご相談ください。
これからも悩みながら、一つひとつ言葉を選んでいきたいと思います。